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バイデン米政権の国務長官、ブリンケン氏は最初の訪問国に日本を選択し、韓国に飛んだ。間を置かずに米アラスカ州で中国の楊潔●・共産党政治局員、王毅・国務委員兼外相と会談した。
このアジア外交シリーズで目を引いたのは日米安全保障協議委員会(2プラス2)の際にブリンケン氏の襟元で確認された「ブルーリボンバッジ」である。
ブルーリボンは日本海と空の青さに由来し、日本と北朝鮮の間には海と空だけが国境なしに続いていることから、拉致被害者と家族の再会を願う意思を象徴する。
米国大使館によれば、ブリンケン氏は東京滞在中、ずっとこのバッジを襟につけていた。
来日を前に、拉致被害者の横田めぐみさんの母、早紀江さんと弟の拓也さんらは米国のヤング駐日臨時代理大使と面会し、手紙を託していた。ブリンケン氏はこの手紙に「心を動かされた」と語り、「日本国民と強い連帯を感じている」と述べた。
拉致は日本が独自で解決しなくてはならない問題だが、同盟国米国の理解は大きい。ブッシュ政権が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しした圧力を背景に小泉訪朝で拉致被害者5人の帰国に結び付けた。トランプ前大統領は米朝首脳会談で拉致問題に言及した。
ブリンケン氏に宛てた家族会の手紙も「北朝鮮は強い圧力がかかった時だけに交渉の場に出てきます」と指摘し、バイデン政権には「全拉致被害者の即時一括帰国が実現するまで安易に制裁を緩めることがないように強くお願いする次第です」と求めていた。北朝鮮を動かす国際社会の圧力には、米国の協力が欠かせない。同盟強化こそが解決への道筋である。
気になる動きもある。
自民党の二階俊博幹事長は超党派の日朝国交正常化推進議員連盟の役員会で「行動を起こさなければいけない。例えば各党の協力をいただき訪朝を考えてみる。『拉致問題は一番大事』と言っているだけでは向こう(北朝鮮)の人には通じない」と述べた。
与野党が拉致問題を真剣に論じるのは大変結構なことだが、議連の訪朝が「二元外交」となってはなるまい。まして、拉致より国交正常化を優先するかのようなメッセージを送ってはならない。
交渉の混乱は、解決を遠のかせるだけだ。
●=簾の广を厂に、兼を虎に
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2021年3月23日付産経新聞【主張】を転載しています